映画の作り方を踏襲する
こねこフィルムの活動の根底には「映画は斜陽産業ではない。YouTubeやNetflixなど、広義のOTTは成長中であり、そのコンテンツの多くは映画やドラマで構成されている」という考えがある。つまり、現在有効な手段を用いて、自分たちが良いと思う映画制作を続けているわけだ。
和比古 こねこフィルムのアプローチとして、ショート動画という形態を取り入れていますが、人気のあるショートドラマの模倣をするつもりはありません。運営面では、相応の本数をコンスタントに作り続ける必要がありますが、その中でもひとつひとつの作品に、こだわりながら、プライドを持って作ることを意識しています。
実際に、こねこフィルムで活躍する役者とスタッフには三野兄弟と共に映画制作に取り組んできた人たちが多い。そうした映画へのこだわりは作風だけでなく、作品の題字やSNS投稿に用いられるクリエイティブからも伝わってくる。



WEB広告ビジネスの手法を活用
現在の主な収益源はSNSからのアドセンス収益と、企業からのタイアップ広告収益のふたつだという。特に後者では、こねこフィルムが「作品に登場するキャラクター、転じて演じる役者を愛してもらえるようにすること」にこだわっていることが功を奏している。そのキャラクター性が担保されるかぎり、多種多様なタイアップが模索できるからだ。
龍一 こねこフィルムにタイアップなどの相談をされる企業の方々は、広告臭がないものを求めている気がします。もちろん「〇〇を訴求したい」といった要件はあります。こねこフィルムという名前は「connection×film」に由来します。だから企業案件でも、クライアントの方々にも制作に参加してもらう。本編(オリジナル作品)と同じく、現場で自由に意見を交わしながら作り上げていきます。
多くの企業が数値的な効果は二の次で、これまでなかった新しくて、面白いことができる可能性を感じて、こねこフィルムに相談するのだと思う。


撮影現場レポート
2月中旬に都内のハウススタジオで行われた撮影現場を見学させてもらった。この日は、4本の撮影を予定しており、スタッフは朝9時に集合していた。今回の撮影にはスタッフと役者合わせて20人ほどが参加。月に30本ほど公開する都合上、撮影も臨機応変に行なっているとのこと。
ここでは、午後に撮影されたメンバー間で「空き巣」と呼ばれていた作品の撮影模様を紹介する。大まかな設定は、空き巣に入った男が、家主の夫婦と鉢合わせる。クイックルワイパーのようなもので応戦しようとする男を、夫婦は優しい言葉をかけてもてなそうとする。最初は警戒していた男だったが、夫婦の優しさからだんだんと心を開き、出されたカレーを食べて自身の身の上話をはじめる。すると優しくもてなしていた夫が突如、男に締め技を繰り出し、妻は110番へ通報。急展開を遂げていく……。
こねこフィルムでは、全メンバーから企画を募り、スプレッドシートとグループチャットを使って、いつでも自由に共有、意見が行えるようにしている。そして、集まった案から実際に撮影する作品を会議や投票で決めている(※詳しい流れは、P.32参照)。ユニークなのが、あえて脚本は作らずに、現場で段取りを決めるというスタイル。「空き巣」の場合も、事前の設定を叩き台に、その場にいるメンバーが会話や身ぶりを交じえながら、良いセリフ、良い動きを探っていた。周りから上がった意見をふまえ、役者が実際に演じた様が面白いと、全員が「良いね!」と笑いながら、どんどん採用されていく様子が印象的だった。役者の「素のリアクション」が作品に込められていく。これこそが、こねこフィルムが大切にする「愛されるキャラクター」につながっているわけだ。

アドリブではない、入念な段取り
段取りの利点は、その日、その場で起きた出来事をダイレクトに作品へ込められること。例えば強風が吹く日に撮影が行われた場合、役者はごく自然に「今日は風が強いね」といった台詞を発するかもしれない。
この日の現場での昼食はカレーライスだったが、「空き巣」の撮影ではそのカレーライスがそのまま小道具に用いられていた。また、段取りにはかなりの時間がかかるが、アドリブではないため、段取りが決まればテストから本番撮影まではテンポ良く行われることもこねこフィルムの撮影スタイルの特徴である。


全てのメンバーが対等
自由で活発に意見が出る雰囲気づくりとして、全てのメンバーはお互いのことを監督などの肩書きではなく、名前で呼び合っている。
そして役者陣は、自分が出演しない作品の撮影であっても段取りから立ち会い、さまざまな意見を出していく。ときには、意見が採用された役者が急遽、出演する場合もあるそうだ。チャンスが常に、平等に与えらていることが良い作品が生まれる土壌となっている。


映画と同じ撮り方
撮影手法は、映画やドラマの手法を踏襲している。撮影機材も同様である。ただし、多くの撮影を行うために、そして先述の通り、重責を担う役者陣へ相応のギャランティを確保するために、できるだけ小規模の体制で撮影することを心がけているそうだ。例えば、撮影部や照明部は原則として、撮影監督、照明監督のみが参加する。助手的なスタッフはいないという。メイクも最初に立ち会うのみで、衣装は役者の自前である。それでも映画やドラマの現場で活躍してきたスタッフが集まっているため、映画としてのクオリティが保たれている。


完成した作品
これまでの代表作
こねこフィルムは、投稿した作品の反響をしっかりと分析しながら、より面白い作品を追求している。特に反響が大きかったも3作品を紹介しよう。
vol.11 『席奪う男』
電車で席に座ろうとしたところ、後から来た女性に押しのけられて奪われるという龍一氏の実体験を元にできあがった作品。日常的なテーマを風刺的かつシネマティックに描くという、こねこフィルムの作風を象徴した名作である。多くの人が同様の経験をしていることから、半田周平さんが演じる「席奪う男」は名物キャラクターとして、多くのシリーズが作られている。
vol.23 『痴漢冤罪』
2023年9月15日にTikTokで初披露された本作は、同年9月28日X上に非公式に転載されたことがきっかけとなり、現実に起きた出来事だと勘違いした人が出るなど、多くの賛否両論が寄せられた。この作品を撮る上で龍一さんが決めていたのが「対立の構図」。ショート動画の特性をふまえ、制作者としてはあくまでもフラットだが、観た人たちの間で議論が起こることを初期は特に意識していたそうだ。
vol.63『年齢確認VSプライド』
この作品を皮切りに初期のドキュメンタリータッチから一転して、当初から目指していた「キャラクター(役者)を愛してもらえる作品づくり」が、より鮮明になっている。元々シリーズ化を考えていなかったそうだが、「53歳とは思えない可愛さ」や「17歳にしか見えない表情」といったコメントを受けて続編を制作。SNSマーケティングを考慮した制作方針もうかがえる。
ウェビナー視聴者からのQ&A
最後に、先日開催されたウェビナーの質疑応答から主だったものを紹介する。回答からは、こねこフィルム独自のこだわりが垣間見える。

当初の資金はどうやって工面?
運営メンバーが経営する3社がポケットマネーから出資して、当面の運転資金に充てました。当初は、撮影を月に1〜2日に抑えて、その分、1日で10本撮るといった工夫もしていました。ただし、協力してくれた役者さんたちにはギャランティをしっかりお支払いすることも徹底していました。また、もし役者さんが生活費のために別のアルバイトをするぐらいだったら、運営や映像制作を手伝ってもらうようにもしています。

1作品あたりの編集時間は?
平均すると1本あたり1時間ぐらいだと思います。カットバックが多い作品の場合は、3時間ぐらい費やすこともあります。編集では、映画の醍醐味である「間」をできるだけ残すように心がけています。実は編集作業以上に、テロップワークに時間がかかっています。3分程度の作品だと、2時間ぐらい要することもあります。テロップは、全ての言葉をテキスト化するのではなく、感情を補足させるなど、伝えたい気持ちを強調するという考え方で付けています。

視聴者の属性は?
作品ごとに様々です。例えば電車系の作品は男性の視聴者が多い一方、年齢確認シリーズは女性が多く観ているという傾向があります。また、TikTokは10〜20代が中心だったり、Instagramは女性の割合が増えたりと各プラットフォームの特徴による影響もあります。全体としては、女性の視聴者が増えつつあります。

兄弟で作るメリットとデメリットは?
こねこフィルムの活動は、自分たち兄弟だけで完結はしていません。ですが、兄弟で映画を作る上では、基本的に考えていることや発想、頭に思い浮かべているイメージが近いので、コミュニケーションをはじめ、全てのやり取りを手早く行えます。その意味では兄弟にかぎらず、感性が近い人と「それ面白いよね」などと会話しながら作っていくのが何かと効率的だと思います。

